映画『サンセットサンライズ』賛否感想

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Shomin Sinkai
Shomin Sinkai

映画『サンセットサンライズ』の個人的感想をつらつらと述べていきます。

良かった点① ご飯と自然

やっぱりこう、どんなメッセージを差し置いても、東北の自然とご飯の魅力が全面に出ていた作品でした。名前は忘れてしまったのですが、カジキの肉を手で食べる料理は、菅田将暉から奪い取って自分で食べたくなりました。

気のせいかもしれませんが、心なしか主人公西尾を演じる菅田将暉が段々とふっくらとしていく感じもあって、ご飯美味しいんだろうな、とほっこりとした気持ちになりました。

自然も非常に綺麗で、特に深い色をした海の描写は、心を静謐な気持ちにさせる美しさでした。あの美しさがあるからこそ、「あそこまで津波がきた」という説明に恐ろしさが増し、改めて地震の威力を思い知ることになりました。

良かった点② 三宅健

完全に個人の趣味になりますが、僕はV6のファンなので、三宅健が出てくるだけで嬉しくなります。ただ、前情報としても出てくるとは知らず、出てきてからも暫くそれが健君だとは気づかずに観ていた程、けんかっ早い東北弁の若者になりきっていて、例え贔屓目を除いたとしても、素晴らしい演技だったと思います。

良かった点と良くなかった点 なぜ恋をした?

震災と空き家問題をクドカンらしくポップに描く作品でした。なんというか触れにくい震災の傷跡を、けれども触れないで放って忘れていくのもおかしな話なわけで、こういう形で震災を取り上げる取り組みには意義があったと思います。また、傷跡だけでなく、豊かな自然、海の恵みを中心に描いていくのも、変に負のイメージを増長させない効果をもたらし、いいなぁと感じました。

ただし、どうしても理解に苦しむのが、主人公西尾が簡単に百香に恋に落ちてしまうことです。恋をすること自体は悪くありません、もちろん。前に進むことを示すいい要素だと思います。ただ、どうも恋の仕方がアニメ的というか、急に単調で、ストーリーによって恋をさせられているように感じてしまったのです。マスク効果という奴ですよね。普通はマスクをとってがっかりするわけですが、今回はマスクをとった瞬間に一目惚れ。

あのシーンが来た瞬間、真面目に絶望しました。この展開は嫌だ、と。

これがクドカン節というものかもしれませんが、主人公の行動原理が、「この町と人が好きです」である方が、より真面目なメッセージが真っ直ぐに伝わり、作品の完成度が高くなったんじゃないかと思ってしまうんですよね。

百香の視点から考えても、大切な人を震災で失った損失というのは何十年経ってもぬぐえないわけで、今後一生独身であることが、心の平穏を導く可能性だってあるわけです。しかし、田舎特有のおせっかいと言っては言葉が悪いでしょうか、「若くて可愛いんだから結婚しろよ、でもろくな結婚相手だったら許さん」というおせっかいが彼女を襲い、結局そのおせっかいに流されるように、西尾とくっついてしまうのもまた理解に苦しみました。百香も百香で、何故西尾に恋をしたのでしょうか。

どうも恋模様が全体の流れを邪魔していると感じてしまいました。ドラマならあってもよかったかもしれません。

こいつら恋愛してるんだろ、と町の人々が疑うシーンが何度もあり、それがフリで、実は主人公は自然と人が好きなだけなんです、という展開に面白みを感じていたのですが、それがそのまま図星で、はい好きですと認めてしまうのもまた不自然でした。

原作ではもう少し納得がいくものになっているのでしょうか。

僕は恋愛で結ばれた人間関係よりも、章男との船で紡ぐ関係や、料理で繋がる居酒屋での関係性、ご近所づきあいで強まる絆の方が、ことこの作品に関しては重要な気がしていたので、より一層。

解せません。

良かった点③ 東京と東北の衝突

興味深かったのは、東京の人間と東北の人間の衝突があるところです。東北の人は、東京の人が威張り散らしていて、コロナをばらまく奴らだと思っていて、東京の人は、東北の人を田舎者、効率が悪い、仕事が遅い、何でもしてもらえると思っている、などと思っています。

直接東京と東北が戦うということではなく、それぞれのコミュニティで東京や東北に対しての悪口を言うにとどまるのですが、それが逆にリアルで日本人らしく、反吐が出そうになりました(いい意味で)。日本は狭い国ですが、それでもやはり自分の地域に誇りを持ち、他の地域の悪いところを貶すことはありますよね。意外と映画作品でそれを感じることはなかったので、今作は新鮮でした。

良くなかった点 芋煮会

クライマックスともいえる芋煮会。僕はとてもきついと感じてしまいました。

西尾の仕事仲間を東京から呼び、河原で祈る会の面々と鍋を楽しむというものですが、まず最初の空気が地獄すぎて耐えられません。僕が気に食わないのは、東京の人が明らかに下等生物を見る目で東北の面々を見ていることです。完全に舐め腐っています。嫌だけど仕事に繋がるかもしれないから来た、という心情が表面に出過ぎています。リモートに慣れた人間の末路といえるかもしれません。

東京の人の最低な態度が、芋煮会を通して変わることを祈っていました。が、残念ながらそんなことはなく、結局芋煮会は東北組だけが言いたいことをいい、東京の人たちは黙って聞いているだけ。帰国子女に関しては、ずっと寝ていました。

僕からしたら、東北と東京の断絶はより深くなったように感じます。しかも、腹が立つ東京の人が、腹が立つまま映画が終わってしまったので、かなりモヤモヤしたものが胸に残っています。

まとめ

個人的には、今作の評価はあまり高くありません。100点中56点くらいといったところです。偉そうですみません。恐らく僕は、クドカン脚本があまり得意ではないんですよね。芋煮会で痛感しましたが、真面目にやるところとふざけるところのバランスが、残念ながら合わないのです。

とはいえ、観て後悔したかと言われると全くそうではなく、改めて忘れかけていたものを再考するきっかけを与えてくれた、意義ある一作だったと感じています。

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