映画『室町無頼』賛否感想

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Shomin Shinkai
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映画『室町無頼』の感想を、誰かに流されることなくつらつらと語っていきます。

ネタバレを気にしないので、悪しからず。

良かった点 這いあがりの精神

僕は去年社会人となって、改めて社会の権力構造を実感する場面が多くなってきました。近年物価も上昇し、こんな微々たる金でこれからどう生活すればいいのかと不安になる瞬間もあります。

そういった状態で、こういう下克上の物語を見るとぐっときますよね。特に今作は、下々の民の描写も比較的しっかりと見せてくれる印象があり、より一層、上への反発心を駆り立てられます。

同時に、時代が全く違い、接点も何もない町民、百姓、村人たちとどこか心が繋がるような気がして、形容しがたいエネルギーを感じることができました。政府を打倒する作品を見て、じゃあ僕も今から石破総理を殺しにいこうとならないのは、彼らの振舞いに賛同するのではなく、彼らのエネルギーに感化されるからです。圧政に苦しみ、どうにもしようがなくなって、命をかけて一揆をした(そうでもない人たちもいますが)人々のエネルギーが、もう面倒くさくなってダラダラと生きようとする僕の怠慢に鞭を打ってくれるわけです。

王道のエネルギーを与えてくれた映画でした。頑張らねば

良くなかった点 骨皮と蓮田の友情

政府側についた骨皮と、無頼のままであり続ける蓮田の対立が描かれました。

昔、彼らは一緒に行動していたらしいのですが、その友情の部分が希薄だったと感じます

現在の骨皮は非常に悪い人間のように描写されていて、僕の頭の中では、骨皮は政府に翻った敵という認識で固定されていたにも関わらず、骨皮は蓮田に妙に優しく、蓮田の動きを許容するような様子も見せ、敵になりきれていませんでした。恐らくその理由を、過去の友情で補完すべきなのですが、僕の脳内には届きませんでした。

敵になりきれていないということは、打倒政府の快感が弱まることを意味します。骨皮より上の存在である北村一輝が演じる名和好臣が諸悪のような立ち位置ですが、それならば最初から名和好臣を倒すべき敵に指定していた方が、物語の盛り上がりが約束されるような気もします。

そのせいか、最後の骨皮と蓮田の一騎打ちにも心が動かされることはなく、ストーリーと関係図的にはこうなるよな、とどこか知識だけの冷めた目で見ることになってしまいました。

良くなかった点 メトロノーム

どうしようもなく映画のノイズになってしまった部分があって、それは音楽です。サウンドトラックというのでしょうかね。

悲しみと嘆きで胸を打つようなシーンで、呑気な日常描写で聞くような音楽が流れてきたり、こっちは本当に室町時代の気持ちで見ているのに、ピアノのような音が背景で聞こえてきたりして、正直混乱しました。

映像やストーリーは申し分なく、蓮田兵衛と同時に、その弟子の才蔵にフォーカスを当てるというのも、結末に大きな希望を与えうる展開でとてもよかったと思いますし、アクションシーンも思ったより癖もなく見ごたえがありました。

そういった、映像や展開に「いい!面白い!」と思った次の瞬間には、的外れな音楽が聞こえてきて、面白いと思いたい気持ちに歯止めがかかるといった状況に何度も陥りました。

他の方々がはノイズに感じなかったのですかね。少なくとも僕は、「面白くなりそう」の後に「音楽が邪魔してくる!」と、まるでメトロノームのように映画に対する評価がずっと揺れてしまったのが正直なところです。

良かった点 平民の無能さ

一つとてもリアルだと思ったところは、一揆に参加した九割以上の平民らは、自分の借金が帳消しになればそれでいいと、進軍を止めてしまうところです。それどころか、歌い踊り始めました。

そりゃ、あれだけ苦しい生活をしていたら、目先の利益のみに夢中になってしまうのは仕方がないことですが、結局親玉である政府を倒さないと何ともならないわけですよね。そうしないと、また新たな法律で苦しい生活に逆戻りです。

それを理解せず、あまりに直近の問題を一つ解決しただけで、今後の生活がハッピーになるとでも言わんばかりの盛り上がり方は、どうもこう、平民の平民たるゆえんを見ている気がしました。

良かった点 キャラとしての登場人物

蓮田を始めとして、今回登場した登場人物たちは、アニメ的なキャラクターとして造形されているような気がしました。

姿を見ただけで人物、性格、戦い方がわかり、誰一人被る立ち位置の人がいません。まるで週刊少年ジャンプの漫画・アニメを見ているかのような感覚になった瞬間もあります。

時代劇の様相を呈していますが、その根幹にはわかりやすい下克上のアクション物語が敷かれているので、このようなキャラ造形になるのだと思います。個人的にはこのコテコテのキャラクターたちが結構好きで、価値観も比較的現代に近いようなキャラだと感じ、すんなりと受け入れることができました。

良かったシーン 才蔵が若干空を飛ぶ

最終決戦で、才蔵が若干の超能力を手にします。

今までの現実的な戦いのトーンから逸脱したので、一瞬冷めましたが、すぐに興奮が押し寄せました。

あまりに追い詰められた極限の状態で、人間の行動を制限するリミッターが外れて、最大限以上の力を手にした瞬間に思えたからです。これも少年ジャンプ的な魅せ方の一つで、追い詰められた主人公が突然限界を超えて力を手にする展開ですよね。

良かった点 負けるのを知っていた

一揆が成功した後、少数の仲間を引き連れて、蓮田は政府の中枢に乗り込もうとします。しかし多勢に無勢、勝てる見込みはありません。一揆を起こした仲間たちと共に逃げれればよかったのに、蓮田はそうしませんでした。

これまで自分が生き延びるために、時には逃げ、時には策略を用いていた蓮田が、正面きって敗北必須の戦いに挑むことを決意していたのです。

蓮田のこれまでにない、「自我」のようなものが出ていて、僕は一人の人間の生き様に宿る「自由さ」を認識させられました。無頼は、定職に就かず、ぶらぶらと生きているものです。ですが、蓮田のいう無頼には「自我による選択の自由」の意味が込められていたような気がします。つまり、蓮田は政府にたてついて平民たちを救うことを自由に選び、そして、正々堂々戦った末に負けて死ぬことを自分の意思で自由に選んでいたのです。しかも、その意思に賛同する仲間たちまで現れました。

もちろん、ある意味では勝ちともとれる結果ではありましたが、死ぬことまで選べるなんて、なんと逞しい……。

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